普通話(北京語)と広東語の共通点と相違点
広東語は中国語の方言の一つですが、いわゆる標準語と関西弁どころの違いではありません。津軽弁と沖縄方言以上の差は確実に存在しています。
両者には大きな隔たりがありますが、その一方で言語としては同じです。ここでは、普通話(北京語)と広東語の共通点と相違点についてまとめていきます。
両者を比べる前に、それぞれの言語について簡単に紹介しておきます。
普通話は、その文字通り「中国国内で遍く使われている共通語」です。普通話=北京語とされることも多いですが、実は少し違います。北京語は中国語の方言の一つで、北京周辺で使われているものを指します。それに対して普通話は、北京語を基につくりだされた中国全土の共通語です。普通話=北京語という考え方が全く間違えであるとは言いませんが、定義は少し異なっていることを知っておきましょう。普通話は言わずもがな中国本土だけでなく台湾でも使われています(台湾では普通話ではなく「國語(国語)」と呼ばれています)。
広東語は、広東省周辺で話されている中国語の方言の一つです。特に香港やマカオの実質的な公用語となっていることは広く知られていますが、東南アジアや北米・オセアニアの中国系移民も広東語を母語とする割合が多いとされています。そのこともあってか、広東語話者はそれ単体で1億人を超えていたりします。
語彙と文法
後で紹介する発音の話を除いて漢字で表記すれば、語彙は多くが共通していますが、違いもあります。
吃→食
そう、広東語は古くからの中国語の特徴を色濃く残している言語なので、普通話では日常会話で使われないような表現が使われる場合が多くあります。古くからの中国語に似ているということは当然日本語の表現と似てくる場合があり、例で示した「食」などはまさにその典型です。発音もsik6(6は声調)と、日本語の音読み「ショク」何となく似ていますね。また、似たような意味を重ねた熟語の順序が逆になることがあります。普通話と比べてみると、
力氣→氣力
介紹→紹介
暴風→風暴
制裁→裁制
などなど。
また、人称代名詞を表す漢字や、「是」「在」「了」などよく使う字も若干異なります。もちろん発音も異なります。
他→(人偏に巨)
是→係
在→(口編に係)
了→(口編に左)
文法構造の違いも見られます。例えば「私が先にご飯を食べる」という意味の普通話は
我先吃飯
となりますが、広東語で喋るときには先ほどの「吃=食」と合わせて
我食飯先
となります。
ただし、非常にややこしいのが、文法も語彙も、実際に文字で書かれる場合にはあまり違いが関係ないということ。広東語は口語メインの言語なので、いざ公式な場面で何かを「書く」となると一般的には普通話の語彙、単語を使います。
フォーマルな文章:普通話の語彙と文法(我是~)
インフォーマルな文章:広東語の語彙と文法(我係~)
発音(漢字の読み方)
漢字の読み方は全く違います。「日本」という漢字を(無理矢理ですが)カタカナ表記で表してみます。
広東語は比較的古い中国語の特徴を残しているといわれていることには先程も触れましたが、発音面でも同様です。日本に漢語を取り入れたのもかなり時代を遡るので、結果的に広東語の漢字の読み方と日本語の漢字の読み方はかなり似ている場合が多いです。
また普通話(北京語)にない発音というのもあります。代表的なものは、子音の「ng」
や入声の「~t」「~p」「~k」でしょう。
例えば「我」は日本語の「わたし」という意味ですが、その読み方は「ngo」という鼻濁音です。日本語にも実は鼻濁音の「か゚」「き゚」「く゚」「け゚」「こ゚」が存在していて、広東語の「ng」に相当します。
入声も広東語の大きな特徴です。入声とは、「sap」「yik」といった形で現れる語末子音のことで、日本語の「っ」のような感じのつまった音を次の子音を言う直前で止める感じです。普通話では完全に消滅してしまいましたが、広東語以外の方言でも残っている場合があります。
発音(声調)
普通話(北京語)では声調が4種類ありますが、広東語では6種類の声調が存在します(数え方によっては9声あるとされることもあります。漢字の読み方のところでも紹介したような「入声」を含めると3声増えますが、そんなに気にしなくても大丈夫です)。
si1 si2 si3 si4 si5 si6
声調の種類が多い分、それぞれの聞き分けも曖昧に感じられることが多いと思います。どこまでいっても声調は難しいです。
字体
香港・マカオに限った話ですが、中国本土で使われている「簡体字」ではなく、戦前の日本が使っていた旧字体に近い「繁体字」を使っています。
そもそも広東語は話し言葉なので表記体系というものはありませんが、香港やマカオでは例外的に繁体字を用いた広東語の表記体系が確立されています。広東省でどう表記されているのかは分かりませんが、いずれにせよ簡体字であることは確かです。
発音記号
普通話(台湾では国語)はピンインや注音符号といった発音記号がありますが、広東語にはしっかりとした発音記号が定められていません。
粤ピンやYale式と呼ばれるものがメジャーですが、とにかく定まった発音記号はありません。教科書は単語帳で勉強しようと思っても、書いてある発音記号が全然違うということがよくあると思います。
例えば「一」は粤ピンではjat1、Yale式ではyat1と表記されます。別の発音記号を別々に学んでも混乱するだけなので、もし広東語を勉強するのであれば最初は初心者用教材の表記に沿って覚えておくのがおすすめです。
最後に
広東語は中国語の方言の中でも話者人口が多く、経済的な影響力も強いのが特徴です。香港好きの人、海外の華人と交流してみたい人などは、普通話よりも難易度は上がるかもしれませんが、挨拶だけでも知っておくと楽しいでしょう。